あかびら人

株式会社植松電機 代表 植松努さん

場所はローカルだけど、
目線はローカルじゃない。
それがあかびら人だよね。 株式会社植松電機 代表 植松努さん

リサイクル用のマグネット装置を製造する傍ら、北海道大学などと共同で宇宙開発に取り組む植松電機の代表、植松努さん。「NASAより宇宙に近い町工場」や「好奇心を『天職』に変える空想教室」などの著者でもあり、YouTubeで配信されたプレゼンテーション動画の再生回数は300万回を超えるなど、その活動は全国的にも知られています。

車から戦艦、飛行機、ロケットまで
乗り物ならなんでも大好き!な少年時代。

出身は赤平市に隣接する芦別市。子どものころから紙飛行機が好きで、宇宙への憧れを抱いていたという植松さんは、大学に進むと流体力学を専攻し、卒業後は名古屋で航空機設計を手がける会社に入社しました。数年間勤務した後、北海道に戻り、1994年に家業である植松電機に入社。赤平市内の工業団地に本社社屋と工場を建設したのは2000年のことです。

2004年に北海道大学の永田教授との出会いからロケット開発を手がけるようになった植松電機。「植松電機=ロケット」というイメージで語られることの多い同社ですが、現在はそれらに加え、幅広い業界との交流や技術支援を行っているのだそう。
「例えば最近では南極探検用のソリの開発などに携わりました。なぜソリを?と思われるかも知れませんが、南極という場所はマイナス60度まで冷え込み、さらに強烈な紫外線に晒されるなど、宇宙空間によく似た環境なんです。しかも1100キロメートルという距離を移動するためには高い耐久性が必要。ソリづくりにも宇宙開発のノウハウが存分に生かされています」

また、世界に3台しかない(日本には1台だけ!)と言われる、微小重力実験塔(コスモトーレ)を自社で建設するなど、チャレンジスピリットに溢れる植松電機には本州の企業からも様々な相談事が持ち込まれます。
「国内トップレベルの企業や研究者が私たちの装置を使わせてほしいとやって来るんです。そうした人たちと一緒に仕事をする機会は、得ようと思って得られるものではありません。僕たちはそういう人と仕事することで、知識や技術を吸収していっているんです」

飛行機やロケットだけでなく、車や船など乗り物に関する書籍がズラリとならぶ

儲かるかどうかではなく、
困っている人の役に立つかどうか。

とはいえ、こうした取り組みはすぐに利益にはつながらないと、植松さんは苦笑い。
「さまざまな研究開発を手がけていますが、すぐに売れそうなもの、簡単に儲かりそうなものは殆どありません(苦笑)。もし、売れそうなものならきっと誰かが既にやっているし、儲かりそうなものなら激しい競争になっているはず。後から始めてもパイの奪い合いになって、消耗してしまうだけですからね」
だからこそ、儲かるか否かではなく、世の中の「悲しさ」「苦しさ」「不便」など皆が困っていることの解消に力を注ぐのだと植松さん。そうすればそこに新しいパイが生まれるのだと説明します。
「これから人口が減っていく時代になれば、ますますモノが売れなくなるでしょう。でも、世の中の問題を解決できるものなら、きっと必要とする人がいるはずだし、それは新しいパイを作ることになる。これからはそういうことのできる人が活躍する時代になっていくと考えています」

もうひとつ、植松電機のユニークな特徴のひとつが、宇宙やロケットなどの専門教育を受けていない、「普通の人」が研究者として活躍しているということ。一体どのような人材育成を行っているのかを尋ねてみると「特別なことはしていません」という答えが返ってきました。
「マグネット事業でも他社との研究でも、僕は大まかな目標を示すだけで、それ以外の指示はほとんど出しません。だから基本的には、どんなやりかたをしても良いんです。何度も失敗をするかも知れませんが、それが知恵や経験になり、次はどうすれば良いかを判断する力を養うことになります」

ロケット模型の隣で飼育しているのはカマキリ。本州で公演をした際に捕獲して持ち帰ったそう。

地域に根ざしていながら、世界に通用する
技術を持った企業が多いことが赤平の魅力。

社内の人材は勝手に育っていくと笑う植松さんですが、子どもたちへの教育活動に熱心に取り組んでいます。学校単位の工場見学を毎年多数受け入れているほか、同社の施設を使ったモデルロケット教室、宇宙をテーマにした科学教室「コズミックカレッジ」などを定期的に開催しています。全国各地からの講演依頼も次々に舞い込んでいます。
また植松さんは、自身の趣味でもある「スポーツシューティング(いわゆるサバイバルゲーム)」のイベントを開催し、そこにも子どもたちを巻き込んでいると教えてくれました。
「僕は昔から目が悪く、遠近感がないので球技は全然ダメなんです。だから子どもの頃は体育が大嫌いでした。ただ、そんな僕でもエアガンだけはうまくできたんです。エアガンは機械が玉を飛ばしてくれるので運動神経は関係なく、誰でも対等に楽しめて、うまく当たれば自信になる。以前、子どもたちを集めてサバゲーをやった時は、運動が嫌いな子、苦手な子もみんな目を輝かせて楽しんでいました」

最後に赤平という街の魅力を尋ねると「目線がローカルじゃない人が多い」と話してくれた植松さん。
「地域に根ざしていながら、国内外で通用する技術を持った企業が多く、外向きの視点を持った人が多いのがこの街の特徴。そういう人たちとの交流を通じて自己研鑽ができるのは赤平の魅力だと思います。また、札幌から1時間という近さでありながら、人口密度が小さく、土地も安い。人生全体にかかるトータルコストを抑えて生活できるのも良いですね」

  • 左手にはエアガン、右手には大量のプラモデルが。

  • 忙しいスケジュールの合間を縫って話を聞かせてくれた植松さん。

株式会社植松電機
住所 北海道赤平市共和町230番地50(赤平第2工業団地)
電話 0125-34-4133
URL https://uematsudenki.com/

【2019年02月20日更新】